ぴあでも稽古場レポしてくれてはった〜んv

「努力しないで出世する方法」。そりゃいい!と色めきたつ人も、そんなもんあってたまるか!という人も、とりあえず劇場へ集まれ。1961年ブロードウェイで初演、1417回にわたるロングランを記録したミュージカル『ハウ・トゥー・サクシード』がリバイバル上演される。大きな野心といくつかの偶然に背中を押され、大企業の上役へとぐんぐんのし上がっていく主人公を演じるのは、西川貴教。日に日に熱を帯びていく稽古場に潜入した。
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 大きな扉を開けたとき、中では中盤の大切なシーンの稽古が始まっていた。西川演じる主人公・フィンチが恋に落ちる場面。……というか、とっくに恋に落ちていた自分に、ようやく気づく場面。手も足も顔も声もめいっぱい使って、その瞬間を表現する西川。決して大きくはないその身体から、見えない火花が飛び散って、大きな空間を満たしていく。そんな彼に刺激されてか、演出の菅野こうめいは、より緻密な演技プランを示す。このセリフの、この瞬間まではこういう気持ちで、でもこのひとことで、こーんな気持ちになってほしいんだ! 心を伴わない“それなり”の演技ではなく、心まるごとを舞台にのせようとする菅野。その指示を受けてうなずく西川はもはや“ちょっと舞台をかじりに来たミュージシャン”ではなく“大舞台を任された舞台人”の顔をしている。


 共演陣も奮闘中だ。フィンチにひとめ惚れしてしまう受付嬢・ローズマリーを演じるのは大塚ちひろ。「この人ってば、まったくもう!」のいら立ちと、「でも好きになっちゃったんだもん!」の恋心とのシーソーゲームを、飾らない笑顔と済んだ歌声で表現してみせる。一方、三浦理恵子が演じるのは、根はしたたかなセクシー美人秘書・へディ。持ち前のキャット・ヴォイスを存分に発揮しながら、歌の場面では意外にも凛とした歌声を響かせていた。

 ふと見ると、西川がいない。出番以外の時間にも、彼は少しもじっとしていないのだ。出演者やスタッフと談笑していたかと思えば、フィンチが着るスーツについて衣装スタッフと意見交換したり、劇中のナンバーをハナウタで口ずさんだり。稽古場の隅で、こっそり腕立て伏せしているのも見てしまった。自由で軽やか。何とも頼もしい座長だ。座組という名のチームを率いて、新たな世界へ船出することの覚悟と喜びを、この人は知り抜いている。
 名もないひとりの青年が、機転と幸運を最大限に発揮して、出世街道を突き進む物語。泣いたり笑ったりあっけに取られたり、息つく間もなく展開していく彼の行く先は、どうか劇場でご確認を。

取材・文:小川志津子
http://info.pia.co.jp/et/play-m/succeed07/h2s_repo.html