ぴあ初日レポ

西川貴教が久々のミュージカルに挑む。ヒロイン役の大塚ちひろも熱演

デビューから11年を迎え、ますます活動の場を広げている西川貴教。彼が主演するブロードウェイ・ミュージカル『ハウ・トゥー・サクシード』が、4月21日池袋・東京芸術劇場で開幕した。窓拭きの青年フィンチが、メルマガ(原作ではハウ・トゥー本)の『努力しないで出世する方法』を読んだことから巻き起こる、風刺と愛に満ちた傑作コメディ。多彩なキャストの個性が、存分にいかされたステージとなった。

物語は高層ビルの窓をゴンドラに乗って拭いているフィンチ(西川貴教)の後ろ姿から始まる。赤いつなぎで働く西川が、二枚目というよりは愛嬌たっぷりに周囲を惹きつけるフィンチのイメージにまずぴったり。胸が躍る有名なオーバーチュアの後、青いシャイニーなスーツに早変わりした西川フィンチは、メルマガの“社内で誰が何をやってるかわからないくらい大きな会社を選べ”という指示により、IT企業である「ワールド・ワイド・ウィケット・カンパニー」に入社。そこで彼が出会ったのは、彼に一目ぼれした同僚ローズマリー大塚ちひろ)、元モデルの秘書ヘディ(三浦理恵子)、メガネのベテランOLスミティ(入江加奈子)に、社長の甥でマザコンのバド(藤本隆宏)など、個性豊かな面々。フィンチはなんとか郵便室勤務として同社に潜り込むことに成功し、バドの功名心を逆手にとったり、社長のビグリー(団時朗)とヘディとのラブ・アフェアを利用したりしながら、役職の階段を猛スピードで駆け上がってゆくのだが…。
 
舞台稽古後の会見で「あっという間に場面が過ぎてゆくように感じるかもしれないけれど、それほどいろんな要素が詰まっている見どころの多い作品」と西川が語っていたように、一つのエピソードで簡単に肩書きが変わっていく、いかにも欧米的な描写の一方で、それを補う耳なじみのいい歌とダンス、そして思わず「あるある」とうなずいてしまうリアルなエピソードの数々は見事。例えば社内パーティに流行りのドレスを張り切って着てきた女子社員が、全員同じデザインの服でガッカリしたり(エビちゃん現象?)、愛校心に燃える社長に、同じ大学卒とさりげなく主張して目をかけてもらたり。後半、ついに宣伝部長となったフィンチがプレゼンに挑むシーンでは、彼の存在に脅威を抱く人事部長のブラッド(赤坂泰彦)らが見つめる中、トイレの鏡に写る自分の顔に向かって「I believe in you」(自分を信じてる)とフィンチが歌う姿が印象的。その孤独感は、男女を問わず社会人なら誰でも一度は覚えのある経験だろう。こんなところにも、トニー賞だけでなくピューリツァー賞をも受賞している本作の底力を、まざまざと見せ付けられるのだ。

そしてこのミュージカルを支えているのが、キャスト陣の力量。フィンチ役の西川は膨大なセリフと歌、また身軽な動きを要するダンスとくるくる変わる表情の全てをクリアして、西川ならではのフィンチ像を作り上げた。個性の際立つ声も、フィンチ役に不可欠な愛嬌を伝えて魅力的。公演回数を経るに従って、よりこなれていく様子に期待したい。相手役ローズマリーの大塚は、とぼけたコメディエンヌぶりを発揮。憎めない可愛らしさをうまく出していた。スミティ役の入江とバド役の藤本はさすがの上手さ。マンガのようなキャラクター像をくっきりと演じた。さらに健闘が光ったのが、三浦と赤坂の二人。三浦はパブリックイメージを生かした色気たっぷりの秘書ヘディの役でミュージカルも初挑戦だが、発声と演技が明瞭でメリハリもある。赤坂は人当たりはいいが人心の裏を読むことに長けているブラッドを、白髪のメッシュを入れた髪形で落ち着いて演じていた。 「やっている私達も楽しい」(大塚)、「一時たりとも見逃さないで」(三浦)との言葉通り、テンポのいいストーリー展開であっという間の二時間半。舞台のすみずみまで見届けるために、二度三度と通いたくなる正統派ミュージカルの誕生だ。

本舞台は、5月13日(日)まで東京芸術劇場 中ホールで上演され、その後5月16日(水)から19日(土)まで大阪・梅田芸術劇場 メインホールでの公演となる。

(文・佐藤さくら)

(4月24日更新)

http://www.pia.co.jp/news/hot/20070423_succeed.html

写真2つ目の団さんとの体格差と口のでかさがおもろいwww